久しぶりにバイクを出した。
前日から天気予報を何度も確認して、土曜日の朝絶好のバイクツーリング日和だ。ヘルメットをかぶる前の、あの独特の高揚感。エンジンをかけた瞬間に体の中を流れる何か。毎回忘れかけていたそれが、またするりと戻ってくる。
目的地は道の駅淡河。来月に控えた四国・九州ツーリングの打ち合わせのために、仲間と11時に集まることにしていた。ルートの確認、持ち物のチェック、宿の段取り——要するに「遠征前の作戦会議」だ。でも正直なところ、それはあくまでも口実で、この季節に走らない理由などどこにもない、ということを体が知っていたのだと思う。


風が気持ちいい。それだけで、もう十分だった。
打ち合わせを終えると、三田に住む友人に連絡をしてランチでも、という流れになった。向かったのはフルーツフラワーパーク。土曜日ということもあって、駐車場はすでに家族連れで賑わっていた。子どもたちの声が飛び交う中で食べるミンチカツ定食は、なぜかいつもより旨い気がした。旅の途中の飯は、どこで食べても旨いのだ。

午後は少し足を伸ばして、道の駅よかわへ。
「山田錦の聖地・三木市」と書かれた幕の前に、全国の酒蔵の樽がずらりと並んでいた。白鶴、櫻正宗、菊正宗、白鷹——灘の銘酒を支えてきた米が、この丘陵地で育てられている。バイクで走っていると、沿道の田んぼがいつもとは違って見えた。夕方の光を受けてゆるやかに輝く稲の緑は、ただの風景ではなく、土地そのものの息吹のように感じられた。
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どこかの田んぼの端では、刈った草を燃やす煙がまっすぐ空に昇っていた。ああ、春が本格的に動き出している。しばらく見たことのなかったれんげ畑の光景に気持ちが和む。


夕方、自宅に戻ってメーターを確認する。
TRIP1:93.3km
今日の振り返り
大した距離ではない。でも、数字の問題じゃない。走った分だけ、頭の中が整理される。来月の長旅への期待感も、今日の風景も、仲間の顔も、全部がこの93.3kmの中に詰まっている。
ヘルメットを棚に戻しながら、来月のことを考えた。四国、九州。もっと長い道が、もうすぐ始まる。
