真夏の畑作業は、早朝に限る。
朝7時、まだ太陽が本気を出す前の澄んだ空気の中、私は自宅を出発した。年々、亜熱帯化が進んでいると言われる日本。酷暑が続くこの国において、「いかに暑さを避けて動くか」は、農作業を行う上で生存戦略とも言える不可欠な要素だ。
今回の目的地は、兵庫県・丹波篠山にある我が豆畑。前回の「豆活」から数えて、ちょうど3週間のブランクが空いてしまっていた。
車を走らせながら、胸の中には二つの想いが交錯する。
「どれくらい大きくなっているだろうか」という、愛おしい豆の生育を楽しみにする気持ち。そしてもうひとつ――「あの勢いで雑草が伸びていたらどうしよう」という、重い予感と懸念だ。
丹波篠山に到着、目の前に広がっていた絶望
現地に到着したのは、予定より少し押して午前9時前。すでに日差しはジリジリと肌を刺し始めていた。

車を降り、畑へと向かう。案の定、そこに広がっていたのは「相当な勢い」で生い茂る雑草の海だった。たった3週間目を離しただけで、畑の主役が誰なのか分からなくなるほどの青々とした雑草たちが、我が物顔で太陽の光を独占している。
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しかし、この時の私はまだどこか楽観的だった。
「まあ、今日の作業は基本『雑草を抜くだけ』だからな。要領よく手際よくやれば、午前中のうちにサクッと終えられるんじゃないか」
そうたかを括り、帽子を深くかぶり直して畑へと飛び込んだ。だが、その甘い見通しは、真夏の太陽によって一瞬で打ち砕かれることになる。
1時間半の死闘と、テールゲートの影
作業を始めてすぐに悟った。真夏の酷暑の中での連続作業は、想像を絶するほど足腰と体力を削っていく。
直射日光が容赦なく体温を奪い、汗が目に入って沁みる。黙々と草を抜き続けるものの、1時間半が限界だった。そこからは、倒れ込むようにして車へと避難する。


今回は幸いなことに、車で畑まで来ていたのが最大の救いだった。
日陰を求めてハッチバックのテールゲートを開け、その小さな影の中に身体を滑り込ませる。持参したクーラーボックスを開けると、カチコチに凍らせておいたスポーツドリンクが冷気を放っていた。それを手に取り、熱を持った身体と乾ききった喉へと流し込む。
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「生き返る……」
冷気が身体の奥まで染み渡っていくのを感じながら、荒い呼吸を整える。1時間半目いっぱい動いて、30分の手厚い給水タイム。しっかり休憩を取らなければ命に関わるレベルの暑さだ。しかし、このペースだと作業は思うようには進まない。
「午前中で終わらせる」という当初の計画はとうに崩れ去っていた。
膝をつき、握力を失い、精も根も尽き果てて
昼休みを返上し、水分補給と草抜きを交互に繰り返す背水の陣で挑んだ。
畝(うね)と畝の狭い間に膝をつき、地這うようにして雑草と向き合う。下半身は泥だらけだ。そして何より厄介なのが、しつこく根を張った雑草たちである。表面の葉をむしるだけでは意味がないため、根元を強く握り締め、地面から引き抜く。
一根、また一根。
引き抜くたびに指先の力が奪われていく。午後を過ぎる頃には、完全に指の握力がなくなっていた。力を込めようにも指が言うことを聞かない。体内の水分も、気力も、文字通り「精も根も尽き果てた」状態だった。
「ゲームセットだ」
そう心の中で白旗を上げかけた午後3時。
ようやく、予定していた3つの畝の雑草をすべて抜き終えることができた。朝9時から実に6時間。激闘の末の完全完走だった。

本来ならば、ここから畝の間の溝を掘り上げて、豆の根本に土をかける「土寄せ」の作業まで行いたかった。土寄せをすることで、株が安定し、根の発育も促進されるからだ。だが、もうそんな気力は残っていなかった。今回はこれで十分。無理をせず、ここで作業を終了することにした。
死闘の果てに出会った「ピンクの花」という収穫
泥と汗にまみれ、疲れ果ててしゃがみ込んでいた私だが、ふと足元の豆の株に目をやった瞬間、すべての疲れが吹き飛ぶような光景が飛び込んできた。
この凄まじい暑さと、雨の少ない水不足。そんな過酷すぎる環境にもかかわらず、力強く育った豆の葉の影に、小さなピンク色の花が咲いていたのだ。成長の早い株が、ちゃんと命のバトンを繋ごうとしていた。



厳しい自然の中でも、豆たちはじっと耐え、確実に季節を進めていた。雑草に埋もれながらも太陽を目指し、こうして可憐な花を咲かせてくれた姿に、胸が熱くなるのを感じた。
丹波篠山の豆は、これから8月末にかけて徐々にたくさんの花を咲かせ、やがてその花が落ちたあとに愛おしい実をつける。
握力を失った手、泥だらけのズボン、限界を迎えた身体。
けれど、あのアスリートのような死闘の末に出会えた小さなピンクの花は、私にとって何よりのご褒美であり、最高の「収穫」となった。
今日の振り返り
自然の厳しさと生命力の強さを同時に実感した真夏の豆活。
次は秋、ぷくぷくと膨らんだ実に出会えることを楽しみに、またこの畑に戻ってきたいと思う。
